見習いAIエンジニアの進捗

学んだことをアウトプット

初期人類が常習的な直立二足歩行を獲得した理由

初期人類が、チンパンジーとの共通祖先から分岐し、常習的な直立二足歩行を獲得した理由は現在でも様々な説が存在する。今回はいくつかの学説を紹介し、その長きに渡る議論について自分なりに考察してみる。

 

単純に力学的に効率が良いからなのか?

まず、二足歩行の方が四足歩行より移動効率が良いとする説である。

一般には二足動物は四足動物の2倍のエネルギー消費を必要とするが、チンパンジーについては二足歩行と四足歩行でエネルギー効率が変わらないという研究結果がある。そしてヒトは必ずしも全ての四足動物より効率が良い訳ではないが、チンパンジーよりは効率よく二足歩行が可能である。それゆえ、すでに類人猿がナックルウォークを獲得していれば、そこから二足歩行に進化するのは合理的である、という説がある。(注1)

f:id:pome729:20180817195159j:plain

出典:一般社団法人 アースメイト・チンパンジーNEXT

http://c-next.jp/gariarchive/archive_tsukiichimp.html

 

しかし、最近の研究ではヒトがナックルウォークから直立二足歩行に進化したという説を否定するような学説がある。仮にナックルウォーク歩行仮説が正しいとすれば、それを示すようなチンパンジーやゴリラと共通の骨格発生パターンがあるはずだが、ヒトは他の霊長類とは全く異なる発生パターンをしていた。(注2)

また、オランウータンが樹上で手を補助的に使用して二足歩行しているケースから、ヒトの祖先も同様に樹上生活の時点で二足歩行に適応していたという説もある。(注3)

これらの移動効率の説では、「何のために移動効率を上げる必要があったのか」があまり考えられていない。単に「力学的に移動効率が良かったから」だけでは、進化の方向性が積極的というよりは偶発的に決まってしまったかのように思える。何か直立二足歩行に進化した方が生存しやすかった理由があるのではないだろうか。

 

何のための二足歩行か?

そこで、「物を運ぶために移動効率の良い直立二足歩行を獲得した」という説を考えたい。京都大学霊長類研究所の論文によると、「限られた資源を独占するために、1回にできるだけ多くの資源を持ち運ぼうとして、われわれの祖先は4足ではなく立ち上がって2足で歩くようになった」という主張がある。

この研究ではチンパンジーの行動を、

(a)アブラヤシだけが手に入る条件

(b)アブラヤシに加えてクーラがほんの少量ある条件

(c)アブラヤシよりもクーラがたくさんある条件

に分けて観察している。ここで、アブラヤシは実験場ではどこにでもあるナッツで、クーラはほとんど存在しないため次にいつ手に入るか分からないナッツである。(c)ではアブラヤシは全く無視してクーラだけを運んでいたため、チンパンジーにとってクーラの方が好物だということが分かった。そして(b)では一回でクーラをたくさん運ぼうとし、チンパンジー同士での競争が熾烈になった。結果として、こうした競合場面ではチンパンジーは(a)の場合に比べて二足歩行を4倍行なっていた。(注4)

f:id:pome729:20180817201336j:plain

 

このように食料を確保するために直立二足歩行に適応した、という方が自然淘汰の視点から考えると分かりやすい。

 

体温調節にも都合が良かった

移動効率以外の学説では、「頭を冷やすため」という説がある。樹上から降りて草原で長距離を移動するようになると、四足歩行では赤道地帯の日差しを受けて体温上昇が避けられないため、日光を受ける表面積を減らすために直立した、という説明である。(注1)

これに関連して、「元々季節によって樹上生活と地上生活を気温によって変えていたため、長い乾季で森林が後退しても地上生活に適応できた」という説が最近の研究で主張されている。(注5)これは「人類は開放的な地上生活を始めた時に二足歩行を始めた」というサバンナ仮説に対する反論でもある。

 

結論

このように人類の常習的な直立二足歩行の進化に関して様々な学説が存在するが、以上をまとめると私なりの考えは以下である。

 

・元々初期人類は樹上生活の中でも部分的に二足歩行を行なっていた

・実は気温変化に応じて地上にも降りていた

・乾季で森林が後退したため地上生活の割合が増えていった

・地上で生活する上で、元々樹上でも行なっていた二足歩行に一層適応した方が、力学的な効率だけでなく、体温調整、索敵、物体の運搬などの面からも合理的だった

 

従来ではサバンナ仮説などの非連続的で互いに独立した説が多かったようだが、最近の研究ではそれらを結びつけるような成果が出てきている。ヒトは四足歩行から段階的に直立二足歩行に変えていき、その適応が結果的に様々な点で理にかなっていた、という流れが一番腑に落ちる。

 

【参考文献】

(注1)Craig Stanford UPRIGHT The Evolutionary Key to Becoming Human (クレイグ・スタンフォード 長野敬・林大(訳)(2004) 直立歩行 進化への鍵 青土社

(注2)Naoki Morimoto, Masato Nakatsukasa, Marcia S. Ponce de León & Christoph P. E. Zollikofer (2018)「Femoral ontogeny in humans and great apes and its implications for their last common ancestor」Scientific Reports

(注3)Natasha Pinol (2007)「Lessons from the Orangutans: Upright Walking May Have Begun in the Trees」Science

(注4)Susana Carvalho, Dora Biro, Eugenia Cunha, Kimberley J. Hockings, William C. McGrew, Brian G. Richmond, Tetsuro Matsuzawa(2012)「Chimpanzee carrying behaviour and the origins of human bipedality」Current Biology Volume 22, Issue 6, R180-R181

(注5)Hiroyuki Takemoto (2017). Acquisition of terrestrial life by human ancestors influenced by forest microclimate. Scientific Repor