見習いAIエンジニアの進捗

学んだことをアウトプット

「乳酸は疲労物質」と未だに書いているWebメディアを調べてみた

大学のレポートで、『世間では乳酸についてどれだけ正しく理解されているのか』について調べたので、記事にしてみました。

 

まず、このようなサイトを見つけた。

 

乳酸が疲労物質であると提唱したのは、イギリスのノーベル賞受賞学者アーチボルドビビアン・ヒルです。

彼とその研究者たちは、1929年に発表した論文において、 運動によって体内に乳酸が作られ、 それが蓄積することにより疲労につながるという理論を発表しました。

彼がノーベル賞受賞者であったため、 この理論は疑われることなく、 彼の生徒や学術者を始め多くの人々に指示され続けました。

 

『乳酸は疲労物質?』

乳酸は疲労物質?

 

どうやら20世紀のノーベル賞受賞者が「乳酸は疲労物質である」と提唱したため、長い間世間で誤解され続けたようである。これについてGEヘルスケアジャパン株式会社という企業のサイトに、「乳酸は疲労物質」と提唱されて世間に広まっていった流れについて言及されていたので、以下のようにまとめてみた。

 

・1907年、ケンブリッジ大学のウォルター・モリーフレッチャーとフレデリック・ガウランド・ホプキンズが、嫌気的条件下で電気刺激によって動かした両生類の筋肉に、乳酸が蓄積することを示した

・1929年、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで働いていたアーチボルドビビアン・ヒルが、カエルの筋肉や血漿を使って乳酸を測定し、疲労の原因は乳酸であるとの仮説を提唱した

・1976年、ワシントン大学のロバート・フィッツとジョン・ホロジーは、カエルの筋肉を使って、筋肉の収縮の強さと乳酸の量の継時的な変化を調べた。彼らは、疲労による収縮力の低下と、乳酸の蓄積に、強い直線関係があることを示した

・1983年、ニュージーランドの有名な長距離走のコーチであるリディアードが出版した書籍の中で、乳酸は運動選手のパフォーマンスにも、健康にも悪いと説明した

 

GEヘルスケアジャパン株式会社 ライフサイエンス統括本部 美しすぎる相関が生んだ思い込み』

www.gelifesciences.co.jp

 

しかし、これらの研究で示されているのは、

代謝によって乳酸ができる反応系」だとか、

「筋肉の収縮が低下するのと乳酸の量が比例している」といった、

疲労が乳酸によるものであるという因果関係を直接示したものではなかったようである。

つまり、相関関係を因果関係と誤解し、100年近くも誤った説が浸透してしまったということである。また、この時期に行われた他の研究では、筋肉の収縮低下と、ATPの減少や無機リン酸の増加、ADPの増加、ホスホクレアチンの減少といった変化の相関も観察されていたようだが、なぜか疲労の原因は乳酸という結論になってしまっている。やはり権威が主張した説に迎合する風潮は、当時にもあったのだろうか。科学分野においてそのような誤りが忖度によって訂正されてこなかったという歴史は、決して目を背けてはならない事実である。

 

さて、個人のブログ等や独自のエセ医学による通販サイトが、私利私欲のために「乳酸悪者説」を21世紀にもなって提唱し続けることは、ある程度仕方のないことかもしれない。しかし、大企業やTV番組がエセ医学によって国民を騙すこと(時に無自覚かもしれないが)は、その影響力を鑑みると看過することはできない。

江崎グリコ株式会社のスポーツマン向けWebメディア、「POWER PRODUCTION MAGAZINE」を見てみるとこのような記事があったので抜粋する。

 

○疲れがとれないときに食べたい食べ物

ビタミンB2

タンパク質・脂質・糖質の代謝乳酸などの疲労原因物質を取り除くのに必要。

・ベータカロテン・ビタミンC・ビタミンE

活性酸素疲労物質(乳酸)を除去する食べ物を積極的に摂りましょう。

・豚肉

ビタミンB1が不足していると糖質の代謝が不完全となり、乳酸が発生し、疲労や筋肉痛につながります。

 

cp.glico.jp

 

大手企業のメディアがこのようなことを書いて良いのだろうか。調べてみると、専門家による監修はなく、ライターも非公開になっており、参考文献や引用についても全くの不明である。つい最近もヘルスケアのWebメディアがずさんな記事を量産することで問題になっていたばかりなのに、このような体制には非常に疑問を感じる。

 

他にも調べてみると、ベンチャー企業の運営するヘルスケアメディアでこんな記事があった。

 

クエン酸で素早い疲労回復を

クエン酸を摂ると体内にあるクエン酸回路が活発化。クエン酸回路は糖質、脂質をエネルギーに変換する役割を持っており、疲れの原因である乳酸の分解もしてくれます。

 

『トレLAB』

training-lab.jp

 

上記のように、はっきりと「疲れの原因である乳酸」と言い切ってしまっている。

 

しかしながら、このようなメディアも見受けられる一方、「乳酸 疲労」で検索すると、意外と「実は乳酸は疲労物質ではない」というサイトも多い。実際、検索上位に上がっているものに関してはこのように書かれているようだ。Googleアルゴリズムによって間違った記事は上位に上がらないようにしているのだろうか。

 

このように少なからず「乳酸悪者説」は払拭されてきているようだが、

有象無象の情報で溢れている現代において、研究者は勿論、企業や消費者もこういった誤った知識を鵜呑みにせず、客観的に判断する科学リテラシーが要求されることを強く自覚すべきである。

授業では他にも「脂肪分解をするお茶はダイエットには効果がない」という話があったが、売り手側は手を変え品を変え、消費者の不安を煽り、一見革新的な解決策を提示して扇動してくる。

そういった話に惑わされ、思考停止して飛びつかないよう、常に情報には懐疑的な態度を取ることを忘れないようにしたい。

 

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